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背景

21世紀は,光の時代といわれています.20世紀においては,科学技術の進展によるエレクトロニクスが支える情報通信技術の進展は著しく,我々の生活を豊かにしてきました.さらなる快適な社会の実現には,一層の情報通信の高度化が期待されています.しかし,その発展に伴い,エネルギー消費も増大し続け,地球温暖化をはじめとする環境問題が,われわれ人類にとっての極めて深刻な問題となってきています.そこで,従来の技術の延長ではない,物理現象の潜在能力を活かした革新的な新技術によるブレイクスルーが強く求められています.光の潜在能力~無尽蔵にある太陽エネルギーの利用,超高速・低損失な光で処理を行う情報通信の省エネルギー化,発光現象の原理的な制御による照明をはじめとする光エネルギーの高効率な発生,さらには光の量子的な性質を利用した安心安全な量子情報処理~に至るまで,光が担う役割はますます重要となっております.

本研究室では,このような21世紀を切り開く,”光(フォトン)”を自由自在に操ることを目的として,「フォトニック結晶」「フォトニックナノ構造」をキーワードに,基礎理論・設計・作製技術・評価技術に至るまで,自在な光技術を駆使し,その物理的基礎から,上記の応用にいたる様々な革新的な光技術を実現し,ひいては,エネルギー・環境・次世代情報・通信技術に大きく寄与することを目指しています.

  1. 完全なる光の制御を可能にする3次元フォトニック結晶
  2. 多様な機能素子として動作する2次元フォトニック結晶
  3. 新しい機能を実現するフォトニック結晶面発光レーザ
  4. 黒体輻射スペクトルを制御するフォトニック結晶デバイス
  5. 高効率太陽電池へ向けたフォトニック結晶デバイス
  6. 量子力学的な性質を示す電子・光子の結合系

研究内容

完全なる光の制御を可能にする3次元フォトニック結晶

フォトニック結晶とは、周期構造により光を制御する結晶であり、反射・屈折といった現象から、光の伝搬速度や発光現象をも制御します。非常に高い反射率や負の屈折、光の速度を低下させることが可能となる他、発光を禁止することも可能であり、レーザ光のノイズとなる自然放出光を抑制することも可能となります。こうした機能を十分に生かすためには、3次元空間の全方向に対する制御が重要であり、3次元のフォトニック結晶は、こうした全方向に対する光の制御を実現します。3次元結晶内部に発光体や導波路、演算素子、そして受光体を配置することで、光回路の実現も期待されており、限界が間近に迫った電気回路に変わる高速・低消費電力の次世代型コンピュータに応用されるかもしれません。さらに、最近、3次元結晶の表面に光が局在する現象を発見することができ、太陽電池への応用により、太陽エネルギーから電気エネルギーへの高効率なエネルギー変換の実現可能性も見えてきています。

多様な機能素子として動作する2次元フォトニック結晶

周期構造により光の制御が2次元に制約されたとしても、依然、多様な機能素子が実現されます。より簡単に作製可能な2次元フォトニック結晶は、波長の異なる光の分別(分光)、光の速度の低減(スローライト)、または完全なる光の停止等の機能を実現します。すでに、1ミリメートル角程度のサンプルで、5nm間隔の分光デバイスを実現しており、理論設計通りの動作を確認しています。現在は、光の速度を限りなく低減し停止させ、一定時間のちに、またその光に速度を与えるという課題にも挑戦しています。これは、光によるバッファー機能にもつながる技術であり、光コンピュータ実現への大きな一歩となると期待しています。さらに、2次元方向への光の伝搬の抑制は、残りの方向への放射を強め、指向性の高い発光ダイオード(LED)の実現をも可能とします。必要な方向へのみ発光する光源により、効率的な照明が実現することで、スペースシャトルから見た夜の地球が少しは暗くなるかもしれません。

新しい機能を実現するフォトニック結晶面発光レーザ

光通信、光ディスク、バーコードスキャナ、レーザプリンタ等、現在の生活に欠かせない技術には、半導体レーザが用いられています。これは、半導体レーザが小型・軽量・高効率という非常に使いやすい利点を有するためであります。しかし、単一モードを維持した高出力動作が困難という制約から、その活躍の場は低消費電力用機器に限られてきました。これに対し、フォトニック結晶を光共振器とした次世代型の半導体レーザ(フォトニック結晶面発光レーザ)は、原理的に単一モード高出力動作が可能であり、その活躍の場は大消費電力機器へも拡がると期待されています。現在、自動車や太陽電池等の製造工程においては、レーザ加工やレーザ溶接などkW以上のレーザが用いられていますが、その発光効率は極めて低いのが課題です。そのため、高出力な次世代型半導体レーザは、消費エネルギー低減へ大きな役割を果たすグリーンライトとして大きな期待を集めています。さらに、光による物質のトラッピング、波長サイズ以下の集光点の形成など、新しい可能性も明らかになりつつある本レーザは、今後の展開が非常に興味深い状況です。

黒体輻射スペクトルを制御するフォトニック結晶デバイス

プランクの公式で知られる黒体輻射は、温度で決まるスペクトルをもっています。古くから照明として用いてきた白熱電球は、フィラメントの黒体輻射を利用していることから、明かりとして使われるエネルギー以外に、熱として浪費されるエネルギーが非常に大きいという課題がありました。もし、フィラメントに工夫をすることで、必要な波長以外の浪費されるエネルギーを減らすことが出来れば、白熱電球の生産は継続されることになるでしょう。最近、フィラメントの材料に、特殊な半導体を利用し、表面にフォトニック結晶を作製することで、発光スペクトルが制御できることが分かってきました。これにより、注入したエネルギーを所望の波長で発光させることが可能になると、クリーンな光源の実現へつながる可能性が高まります。また、無尽蔵に降り注がれる太陽光のエネルギーを熱として一端吸収し、これによる熱輻射スペクトルを制御することで、高効率な太陽電池が実現できるかもしれません。

高効率太陽電池へ向けたフォトニック結晶デバイス

地球温暖化、異常気象、生態系の変化など、炭酸ガス(CO2)の大量排出による環境変化は、いまや全世界的な問題となっています。これに対して、近年、太陽電池に代表される太陽エネルギーの活用に人々の注目が集められています。太陽電池のエネルギー変換効率は、長年の研究により着実な向上を見せてはいるものの、いまだ多くの余地が残されてます。我々は、さらなる変換効率の向上は、上述したフォトニック結晶の新たな光制御が担うものと、信じています。入射した光のスペクトルを、より吸収効率の高いスペクトルへ変換する。また表面への光の局在現象を利用することで、エネルギー吸収効率を向上させるなど、フォトニック結晶固有の効果を活用することにより、究極的な太陽電池が実現するかもしれません。

量子力学的な性質を示す電子・光子の結合系

情報量の増大、社会システムの複雑化を背景に、次世代型の通信・情報処理技術である、量子通信・量子コンピュータの実現が強く求められています。特に、光の量子的重ね合わせ状態や単一光子の実現は、その技術的基礎として、重要な意味をもっています。しかし、こうした光の実現は、光子の制御とともに、光子を発生させる電子の制御も同時に必要とします。我々は、量子ドットを用いて電子を制御し、フォトニックナノ構造を用いて光子を制御する方法を研究しています。量子力学に支配される領域を扱う本研究は、将来的な応用の重要性のみならず、物理学の理解・発展に大きく関わる深遠なテーマとなっています。